50000Hit 記念小品

ちょんまげな山田同心

【キャスト】

山田 ・・・ 山田君
鈴(すず) ・・・ 鈴

怜奈 ・・・ レナ
江渡 ・・・ エド

清(きよ) ・・・ 清香ちゃん
沢田 ・・・ マッキー
佳(けい) ・・・ 佳奈
謎の黒子 ・・・ ミヤポン

悪代官 ・・・ イゴリー・ゲルン
越後屋 ・・・ レメーニ




─────悪企みは深夜と相場が決まっている。
「首尾は上々でございますよ。
 ちょっと餌をちらつかせたらすぐ乗って来た男がおりまして」
「・・・越後屋、そなたも悪よのう」
「いやあ、お代官様には敵いませぬ」
草木も眠る時刻、オヤジ二人の顔が蝋燭の明かりで不気味に照らされていた。




時は泰平の世。
将軍様のお膝元であるこの町は、今日も今日とて活気に満ち溢れている。




「いらっしゃいませ・・・あ」
浅草に店を出して十数年になる、あんみつ屋 「まめしば」。
看板娘の鈴は、入ってきた客を見て泣きそうになった。

勝手に回って、茶碗を洗うもう一人の娘に駆け寄る。
「清ちゃん、あの人、また来てるー!」
鈴と幼馴染の清は、実家の旅籠が閑だからと、今日は遊びがてら手伝いに来ていた。
「ああ・・・この頃よく来られる同心様?」
「そう。 目つきが悪くて怖いの」
ぶるっと体を震わせて、鈴はあの鋭い目を思い出した。
「鈴、油売ってないでお客の相手しな」
あんみつを仕込む父親の鋭い声に首を竦めた鈴は、幼馴染に目配せして店内へと向かう。

「ご注文は何になさいます?」
「あんみつを一つ。 白玉を乗せてくれるか」
「・・・かしこまりました。 少々お待ち下さいね」
じろりと突き刺さる視線にたじろぎつつ、その席を後にする。

やがて、盆に乗せられたあんみつが、父の手で勝手から差し出された。
舌ざわり滑らかな餡の上にはぷりぷりの寒天ともっちりした白玉があしらわれ、赤エンドウが可愛く散りばめられている。
「どうぞ」
男は一つ頷いて、運ばれてきたそれを匙で黙々と口へと運ぶ。
どう贔屓目に見ても、子供が見たら泣き出すような恐ろしい顔の男が好む食べ物とは思えないが、彼は少し前からこのあんみつ屋の常連客だ。

と、そこへ慌ただしく別の同心が駆け込んできた。
「てえへんだ!」
「どうした沢田」
「盗みだ、盗み!」
男は匙を置き、鋭い目で同僚を見上げる。
「この近くで怪しい発明をしてる先生の研究が盗まれたんだ」
「何だと」
「さあ早く行くぞ!」
そのやたら小奇麗な女顔の同心に促され立ち上がる。

騒然とした様に驚く鈴へ、男は目を向けた。
「あんみつの残りは後で食べに戻る。 取っておいてくれぬか」
「は・・・はぁ」
「かたじけない」
そして、二人の同心は風のように店を飛び出して行った。




通行人を避けながら、二人は物盗りの現場へ急行する。
「山田、あそこだ」
沢田が案内した先は、ありふれた長屋の一角だった。
さっきまであんみつを食べていた、山田と呼ばれた男は息を整える。
「御免下せえ! 物盗りがあったのはこちらで?」
沢田が勢いよく戸を開けると、困り果てて部屋をうろうろしていた背の高い男が面を上げた。
「あ、同心様方でいらっしゃいますか」
「いかにも」
「手前は江渡と申します」
男は深々頭を上げた。

彼が言うには、怪我をした師を泊まり込みで看病し、今朝戻って来ると、大事な研究成果を記した巻物が無くなっていたと言う。
「盗人らしき男を見たと仰る方がおりますので、今、お呼びして参ります」
しばらくして、江渡は隣の長屋に住む佳を連れてきた。
「昨日の晩、変な男を見たかって?
 あ、そうそう、ふらつく足取りで江渡さんの家から出てきた男がいたわね」
「どんな人相の奴だった」
沢田が真剣な面持ちで質問をする。
「そうねえ、細身の若い男だったわ。 どっかで見たことあるような・・・」
答えながら、艶を漂わせた若い奥方は首を傾げる。
江渡は、必死の形相で懇願した。
「よく思い出してください! お願いです!」

「その必要はないわ、下手人はここよ!」
声のした方に、全員の視線が集まった。
玄関先には、濃い鼠色の装束を来た女に首根っこを掴まれ、項垂れた若い男が立っていた。
「・・・すみませんでした」
「伊野・・・」
土下座して巻物を差し出したのは、山田や沢田と同僚の伊野だった。




・・・昨晩のこと。
懸想する娘への思いを持て余し、伊野は飲み屋でくだを巻いていた。
すると、隣に居合わせた中年の親父が、惚れ薬の研究をしている学者の話を振ってきた。
その処方が記された巻物を盗ってくれば惚れ薬を作ってやる、と唆され、酔いに任せて行ってみると幸か不幸かその家は留守。
調子に乗って巻物を盗み出し、その後酔い潰れて道端で寝こけてしまったのだ。

「・・・目が覚めて、大変なことをしたと思い、戻ってきました」
「で、怪しい男が巻物持ってうろうろしてるじゃない?
 捕まえて脅したら、すぐに白状したわ。 江渡、こいつ、どうする?」
江渡とは知り合いのようで、女は気安くその名を呼ぶ。
「まあ・・・反省してるようだし、お許しして差し上げましょう」
伊野の顔が輝く。
「・・・じゃあ、一件落着?」
佳の声に、山田が頷く。

その時、じっと女を観察していた沢田がはたと声を上げる。
「あなたは、紅一点の御庭番で有名な怜奈殿では?」
「・・・まあ、そんなとこよ」
「やっぱり! 御庭番って忍者みたいなものですよねー、くの一なんて格好いい!」
「あ、ありがと」
「そーだ! くの一と言えば、やっぱりお風呂で悩殺するんですよね!」
「え?」
「そうですよ、肌見せで殿方を虜にしなきゃ!」
佳もうんうんと首を縦に振る。
「あ、私こんな恰好だけど実は女なんですよね。 てわけで佳さん、悩殺する人探してきて」
「合点承知よっ」
「てわけで、お風呂借りまーーーーーす」
いーやーーーー! と怜奈の叫び声が遠ざかっていく。

その様子を呆然と見ていた江渡に、山田が問う。
「・・・ところで、それは本当に惚れ薬の研究なのか」
「いや、全然違いますよ。
 この巻物は、エレキテルを使ったカラクリ箱の設計図なんです」
その答えに、問うた山田の仏頂面はなぜかがっかりして見えた。




長屋を去ろうと、山田と伊野は歩き出す。
気まずい空気が流れる。
その後ろから、幾分気落ちした沢田がやってきた。
怜奈を風呂に閉じ込めようとしたところ謎の黒子に邪魔されて、逃げられたらしい。

「・・・ところでさあ」
三人並んで歩きながら、沢田は口を開く。
「伊野の好きな子って誰なの」
「う・・・」
「言わないと、今日の事お奉行様にチクるよ」
「・・・・・・旅籠の清ちゃんだ」
「へえ、あの子か」
沢田は目を丸くした後、山田に向かう。
「そういえば、あんた最近、よくあんみつ屋に行くよね」
「ああ」
「清ちゃん、あそこの娘と仲良くて時々店手伝ってるよね。 あんたも清ちゃん狙い?」
「違う!」
ぎょっとした伊野を気にしつつ、山田は即座に否定する。
「あ。 あんみつ屋の娘の方か♪」
山田は目を逸らせた。
「私、あそこのあんみつ好きなんだよねー。 山田、あんみつの続き食べに戻るんでしょ?
 奢ってくんないかなあ」
「・・・俺は二日酔いがひどいから、二人で行ってくれ」
・・・伊野の後姿を恨めしげに睨む山田の腕は、機嫌よく足を踏み出した沢田にがっちりと掴まれていた。




「・・・あの子、あんたの名前知ってんの?」
「知らないはずだ」
あんみつを食べながらこそこそ話す二人の視線を感じ、鈴は居心地が悪い。
と、女顔の同心がちょいちょいと手招いた。
「ちょっと、こいつの名前覚えたげて」
ほら、と促され、強面の男は傍らに立つ鈴にぼそりと呟いた。
「・・・山田と申す」
その後に続く沈黙に耐えられず、鈴は口を開いた。
「・・・山田様は、あんみつがお好きなんですか」
「あ、違う違う。 あんみつより・・・もがっ」
相方の口を塞ぎ、涼しい顔で男は告げる。
「いつも美味しいあんみつを頂いて感謝している、鈴殿」

・・・普段の鉄面皮からは想像できぬ柔らかな笑顔に、暫し鈴は釘付けとなる。
そのため、なぜ、この同心が自分の名前を知っているのかという疑問に行き着くのは、ずっと後になってからだった。

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