Love Like Vanilla Beans 3

夢想リアリストの焦燥

Status
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名前 : 山口大輔  年齢 : 18歳
恋愛レベル : 13  称号 : 夢想リアリスト
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普段は高校生がたむろしてるけど、夏休みのせいか、あまり人がいない。
涼しい店内に入ると、暇そうな店員の 「いらっしゃいませー」 というやる気の無い声が空々しく響く。
約束の時間まで二十分ほど。 大した時間じゃないが、エアコンの効いてない学校で待つのはダルイ。
学校から近いコンビニで時間をつぶそうと思ったオレは────店内に見知った顔見つけ、自分GJ!! と心の中で叫んだ。

「市谷じゃねーか」

声をかけると、やったら真剣にアイスを選んでいたクラスの女は、ガラスケースから顔を上げた。

「あれ、山口やん。 どしたん? ガッコに用事?」
「部の後輩に呼び出されてさ」
「へー。 部費ちょろまかしたとか?」
「しねーよそんなこと! 部活のことでいろいろ相談されてんの!」
「あ、そうなんだ。 頼りにされてんだぁ、意外!」

感心した様子の彼女に、ちょっとだけ気を良くする。

「まーね。 で、お前は何してんの」
「ん? 図書館に本返しに」
「本なんて読んでる暇あるんか?」

一応、オレらは受験生なんだからな。 少しの暇も惜しんで勉強しなきゃなんない。
しかし相手は、よくぞ聞いてくれた、と言わんばかりに 「にぃっ」 と笑った。

「私、推薦ほぼキマリなんだよね! へへっ」

オレは彼女を半目で見やった。 六割くらいの冗談と、四割程度の羨望をこめて。

「ほほう。 なら、さぞかし夏休みを満喫してるんでしょうねー」
「ふっふん。 うらやましかろー! 日頃の努力が身を結んだってやつさっ」

彼女は得意げに胸をそらす。
相手の着ている、薄手のタンクトップからオレはさりげなく目を逸らした。本音を言えば凝視したい。
・・・けど、好きな女の前では紳士ぶりたいお年頃なのだ。
ただ、目の前のそいつはオレの葛藤に気づいた様子はなかった。 本当に、全く全然これでもかっていうくらい気づかない。
視線を戻すと、彼女の気安い友達向けスマイルがやけに眩しかった。

市谷莉世。 オレのクラスメイトである。
中学が一緒で、その頃から顔見知り。
美人で気さくでスタイルも良く、なおかつ成績もいい。
色気のない言動だけが少々残念だけど、男子の間ではそこそこ人気がある。
ただ、彼女のことが気になってるヤローども全員で牽制しあってるせいか、今まで市谷に彼氏がいたという話は聞いたことがなかった。
だからこのシチュエーションは・・・・・・神がくれたチャーーーーーーーーーンスッ!!!!

それとなく周囲を見回す。
店内に、客はオレらだけ。 
・・・ここは慎重に、しかしさりげなく キ メ ル ぜ !

「市谷・・・お前、本返した後、暇?」
「は? 何で?」

彼女はきょとんとしてほっそりした首をかしげた。
くーーーー、やっぱかわいいッ!

「いやー、オレ夕方の予備校まで暇なんだよね!」
「うん。 だから?」
「お前も暇なら、どっかいこうぜ!」
「あんたと私が? でも山口、これから部活の用事っしょ?」
「そんなのすぐ終わる!」

本当は新しい筋トレメニュー見てくれって言われてんだけどさ。
本来なら一時間弱かかるはずだが・・・秋原、すまん。 ちょっぱやの三十分で終わらせてもらうぜ。
ぶつぶつ言う後輩の顔を思い浮かべながら、目の前の相手の様子を窺う。
市谷は、いつもはキレイな弧を描いてる眉をなぜか思いきりしかめていた。

「それって・・・もしかしてだけどさあ」

市谷は言いよどんだ。
しかし一瞬の躊躇の後、茶化した表情を浮かべて 「うひっ」 と笑う。
ほんと、こいつ、この笑い方さえ無ければなー。
去年の学園祭で、「ミス浴衣」 の本選、行けただろうに。
ほんと、もったいねーっていうか、まあ、そういうとこもいーなと思ったりするんだけどさ!

「まさか、デートの誘いとかじゃーないよね! おねーさんに相談事かい? 勉強見てくれとかだったら、タダではやらんよ!」

何かよこせ、と言わんばかりに市谷は掌を上に向けて差し出す。
・・・さっきから、レジの店員の生温い視線を感じる。 ちらっと見ると、大学生っぽいその兄ちゃんは、「ガンバレ」 と言う代わりにそっと親指を立てた。

「ちょっと、外出ようぜ」
「え、なんで! 暑いからやだ!」

ぶーぶー言っている市谷が手をひっこめる前に、オレはその手を取って無理矢理店の外に連れ出した。



「あのさ・・・」

名残惜しく手を離す。 オレは彼女と向かい合った。
ようやく、市谷はオレの雰囲気がいつもと違うことに気づいたようだった。
向かい合う彼女の長い睫が、せわしなく瞬きを繰り返す。
一年以上の片思い。 ・・・・・・心の底では気づいてた。
さりげなくとか無理だ。 そんなんじゃ、一億年経ったってこの女には伝わらない。 伝わるわけがないッ! だからオレは勝負に出るッッッ!

「・・・・・・お前のこと、好きなんだ」

一欠片の余裕もないオレの口から、そんな言葉が滑り出た。 これで伝わらなかったら火星人に恋をしてたんだと思って潔く諦めよう。 オレはそう決意した。
しかし、それは無用な杞憂だった。
市谷は、丸い目を更に丸くして、うげっ、と呻いた。 一応、伝わったらしい。

「・・・・・・まじで?」
「まじ」

建物の影にいても、アスファルトの熱気が容赦なく襲う。
Tシャツの内側で、背中を汗が流れていった。

「うぉおあああああっ!?」

オレは、突然の雄叫びにビクッとして後退った。

「あ、ご、ごめん」
「いや、いいけど」
「いや・・・その・・・私、好きな人、いるんだ。 片思いなんだけど、絶対、諦められないっていうか」

撃 沈 。

「だから、ほんと、ごめん。 てか、私、全然気づかなくて」

泣きそうな顔がこっちに向けられる。
いや、泣きたいのオレだし。 うん。 でもこういう顔もするんだなー、こいつ。
いつものケラケラ笑ってる顔もいいけど、こういうのもアリだな。 いい冥土の土産ができたぜ!
───じゃなくて。 色気皆無が自慢の市谷に、一体何があったというんだ!

「・・・・・・」

片思いってことは、相手は彼女持ちなんだろうか。
こいつ周辺の彼女持ちって言えば・・・豊川、いや、高橋か?
幾つかの顔が浮かんでは消え、そしてなぜか。
嫌味ったらしい、眼鏡の数学教師の顔が脳裏をよぎった。

「・・・・・・もしかして」
「え?」
「お前の好きなやつってさ・・・いや、なんでもない」

・・・・・・まさかな。 んなこたーあるわけない。 あっていいはずがない。
この市谷が、あのサド野郎に恋だなんて。

「・・・・・・」
「ま、そんなら仕方ないな。 相手が誰、とは聞かない」
「んー、うん・・・」
「今の忘れて、前のまんま友達でいてくれ」
「あー、うー・・・はい」
「じゃな」

そう言って、彼女に背を向けて学校の方に歩き出した。
機械的に足を動かす。
脳みそやられるような暑さが、今は救いだった。
心を無にして校門をくぐり、真っ直ぐ進んだところで、ふと視界の端で光が弾けた。
無人のプールだ。
空の青を溶かして、光を躍らせながら揺れる水面。
あそこに飛び込んだら、ちょっとはこの苦しさがマシになるだろうか、と。
そう思ったら体はもう動いてた。

フェンスを乗り越え、勢いよく水に飛び込む。 派手な音を上げて、透明な飛沫がキラキラと飛び散った。
あー・・・気持ちい。

仰向けになってゆっくり水を掻く。 そうして、市谷の泣きそうな顔を思い出した。
要するにオレは、あいつにとって 「友達」 なんだって、あの顔を見たら分かってしまった。 それが現実。 目を逸らしようもない。

・・・ほんと、馬鹿だよなー、市谷は。
オレなら超大事にしてやるのに。 片思いとか、ほんと馬鹿。

────冷んやりした水にぷかぷか浮かびながら、起こり得ない未来をぼんやりと想像する。
熱が奪われていく体の感覚だけが、やけに鮮明だった。

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