リーゼントな山田君 入学式

リーゼントな山田君は、入学式のその日から、ものすごーく目立っていた。



*  *  *



「うわー・・・あの人、ヤバくない?」
「しっ! 聞こえるって」

そんな声が聞こえて振り向いた。

ヤバい。 ヤバすぎる。
何ていうんだっけ、あの髪形。
あ、思い出した、リーゼント。 それそれ。

そのお兄さんは。
ガッチガチのリーゼントに細い眉。
鋭い目つきに、イカツイ歩き方。

この高校に、いるはずのない人種だ。
ていうか、今時ありえない。




桜舞う四月。
晴れてあたしは、県立青葉台高校に入学した。
今年から大学生になったお姉ちゃんが、青葉台高校、通称青台の楽しい話をたくさん聞かせてくれたので、あたしも絶対この高校に行こうと決めていたのだ。

合格が決まった時は、ほんとにほんとに嬉しかった。
今朝だって、新品のブレザーに身を包んで、ちょっぴり誇らしかった。

なのに。
なのになのに。

「・・・」
「ねえ、鈴ちゃん、あの人こっち見てない?」

同じ丸川中から入学した清香ちゃんが言う。
彼はその三白眼で、こっちに向ってガンつけている、ように見える。

「ほ、ほんとだ・・・」

やっぱり、彼はずっとこっちを睨んでる。
さっきの会話を、あたしたちだと勘違いしたんだろうか。
でも、誤解ですとか言えるわけない。
声をかけるなんて、絶対無理。 どう考えても無理。

「早く、体育館にいこ」

清香ちゃんを促して、そそくさとその場を離れた。




ところが。
彼は、隣のクラスだった。
あたしの斜め後ろに座っている。 ときどき、チクチク刺さる視線が痛い。
痛いんだってば。

・・・ていうか、あれで同学年なのかよ!




長い長い入学式がようやく終わった。
なるべく前に視線を固定していたから、なんだか首が痛い。
目立たないように、人ごみに紛れた。

はずだった。




「おい」

・・・。

「おい。 聞こえてないのか」

おそるおそる振り返ると、リーゼントの彼が立っていた。
近くで見ると結構デカイ。 彼の鋭い眼光は今、間違いなくあたしに向けられていた。

「な、なんですか?」
「クラスが終わったら、中庭に来い」

いきなり呼び出しですかそうですか。

「・・・」
「来るんだよな?」

低めの声がますます低くなる。
あたしはまるで蛇に睨まれた蛙だった。

「・・・行きます・・・」

そして彼は無言で去って行った。
彼の進行方向にはなぜか、スペースが空く。




「鈴ちゃん、大丈夫?」
「清香ちゃーーーん! 怖かったよー」

清香ちゃんがやってきて、よしよし、と頭を撫でてくれた。

「ね、中庭に呼び出されたの。 一緒に行ってくれない?」

涙目でお願いした。

「・・・ごめん、私、今日用事あるの」

目を逸らして彼女は言う。
運にも友達にも見捨てられた。




担任の説明や、クラスメイトの自己紹介にも、あたしは上の空だった。
刻々と時間が過ぎていく。

「じゃ、皆さん、明日からよろしく」

眼鏡をかけた中年の女性教師が檀上で言うと、クラスは解散となった。
のろのろと帰宅の準備をする。




いくらなんでも女の子に暴力を振るったりしないよね。
とにかく誤解を解かなくちゃ。

隣のクラスはすでに解散してたから、彼はもうそこにいるはずだ。
あんまり待たせたらブチ切れるかもしれない。 少し早足になる。




彼は、遠目からでもひどく目立っていた。
中庭のベンチに、これ以上無いってほどのガニマタで座っている。

私を見つけると、立ち上がった。

「・・・で、ご用は?」

彼は、その三白眼を細めた。 眉間のシワが怖いよお兄さん。




「あんた、つきあってる男いんのか?」
「・・・は?」
「つきあってる男はいんのかって聞いてんだよ」

一瞬、質問の意味が分からなかった。

「い、いませんけど?」
「じゃあ俺とつきあえよ」

じゃあ?
この人、見た目もおかしいけど、頭もおかしいのだろうか。

「どうなんだ」

どうもこうも。 そんな凄まれても。
下手に断ると、暴れ出ししそう。
泣きたくなったあたしは、回らない頭で必死に考える。 ────これしかない。

「あの、まずはお友達から・・・でいかがですか」

敬語を付け加えてみた。
すると彼は、ニヤリとしか形容できない顔で笑った。

「わかった」

そういって、唐突に去っていく。
やっぱり、彼の進行方向には、スペースができる。
いつの間にか集まっていたギャラリーの視線に、立ち尽くすあたしは気づかない。

これがあたしの高校初日にして、リーゼントの彼、山田君との出会いだった。

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