リーゼントな山田君 夏

リーゼントな山田君は、尾崎豊が好きじゃない。



*  *  *



ゴールデンウィークも梅雨も明けて、何だか夏っぽい今日この頃。

「よう」

靴箱を開けた瞬間、背後から低い声。
振り返ると、今日もテッカテカのリーゼントをビシッ!とキメた山田君だった。




あたしはいつも、ひっそり、目立たないように最高の努力をしてる。
なるべく背の高い人の後ろを歩くとか。
長くもない髪をいじるふりして、顔を隠すとか。
なのに、山田君は目ざとくあたしを見つけて、声をかけてくる。
なんなの。 やっぱり嫌がらせですか。

「・・・どうも」

教室まで並んで歩く。
肩で風を切る、まさにそんな歩き方。
前を歩いていた人たちが、さりげなーーく道を譲った。

「木下サン」
「は、はい?」

ええ、あたしは 木下鈴 ですが、何か。

「音楽とかどんなの聞くの」

あたしはちょっと目を丸くした。 珍しくまともな会話が成立しそうだ。
いつもはこうして並んでても、たいてい沈黙してる。

「ええっと、普通ですよ」
「普通って、何」

ひっ。
ドスのきいた声が、さらに低くなる。

「あ、YUI とか・・・です」
「・・・知らねえな」

じゃあ聞くなよ!
というツッコミを、飲み込んだあたし、エライ。 では、気を取り直して。

「や、山田君は、尾崎豊とか、好きそうですよね」

こういう人の90%は、尾崎豊が好きなはず!
・・・そう踏んで、ちょっとね、世間話的にふってみただけなの。
なのに。

「尾崎?」

ますます低くなった声。

「よくそれ、言われんだけど」

ちらりと見ると、目が据わってる。
ヤバい。 逃げたい。

「俺、盗んだバイクで走ったり、校舎の窓を割る奴、嫌いなんだよ」




・・・。
・・・・・・そうですか。
てっきりそっち系かと。

思っちゃうじゃん、そのリーゼントじゃさ!

「あ、じゃあ、どんなの聞くの?・・・ですか?」
「今度、貸す」

山田君はニヤリと笑い、教室に消えていった。




入学式後、あたしと山田君について、根も葉もない噂が学校中に広がった。

「あの二人はつきあってる」
「元レディースと暴走族のヘッド」
「少年院に数回入った」

それを、違うクラスになった清香ちゃんから聞いた時はホント、卒倒するかと思った。
あたしが思い描いてた高校生活は、はかなく消えた気がする。

ちなみに、お姉ちゃんはこの青台で、素敵な彼氏をゲットした。
笑うと目元にちょこっとできるシワが、とっても優しそうな伊藤さん。
お姉ちゃんと似て、笑いジワフェチなあたしはすごーーーく羨ましかった。
山田君の眉間のシワとはぜんっぜん違う。

なのに。
男子どころか、これじゃあ誰も近寄ってこないよ。 山田のバカ!




「いやー、朝からラブラブですなー♪」

ぐったりして教室に入ると、マッキーこと沢田麻紀がやってきた。
彼女は、唯一、この学校に入ってからできた友達だ。

他のクラスメイトがよそよそしい態度を取る中、マッキーが普通に話しかけてくれるおかげで、それほど浮かずに済んでいる。

「んなわけないじゃん。 あのリーゼントを見るたび憂鬱になるよ・・・」
「ぎゃははー! あんたもとんでもないのに目つけられたよね」

マッキーは山田君と同じ大谷中。
彼を恐れない貴重な存在だ。
そういえば、と何か思い出したように言う。

「うちの高校、髪とか結構自由じゃん?
 で、山田ってばさー、中学の最後の頃、リーゼントのために必死で髪伸ばしてたんだよね」
「へえー」

あの髪形には準備期間が必要なのか。
でも、リーゼントじゃない山田君・・・想像できない。

「でもさ、それが雨上がり決死隊の蛍原みたいなの!」

すんごい笑えたー! と言ってマッキーは爆笑している。

やっぱり想像できない。
あの天然ヤンキー顔で、蛍原なんて。




「お疲れ様でしたー」

ネットを片づけ、コートにモップをかける。
あたしは中学と同じバトミントン部に入った。

ここでもあたしの噂は威力を発揮し、最初は先輩も同級生もハレモノに触るような感じだった。
でも、最近はちょっと薄らいできた気がする。
そりゃそうだわ。
あたしはどこをどう見たって、一般人だし。

山田君はそういえば、空手部に入ったらしい。
時々、道着姿のランニング集団に混じっているのを見かける。
あの超絶に生意気そうな外見で、先輩に苛められたりしないのかな。

・・・別に心配してるわけじゃないけど。
ま、山田君なら返り討ちにしちゃうわ、きっと。




翌朝。
相変わらず、目ざとくあたしを見つけた山田君。

「ちゃんと聞けよ」

と言ってCDを差し出した。

「何? 横浜銀ば・・・え・・・?」




・・・。
・・・・・・。

いや、悪いとは言わないけど。
借りるなら尾崎豊のがいい、なんて口が裂けても言えなかった。

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