リーゼントな山田君 秋

リーゼントな山田君は、意外とノリがいい。



*  *  *



16歳の乙女の夏は、あっという間に終わった。
部活、宿題、また部活。




あ、でも一回だけ、マッキー、清香ちゃんの三人でプールに行ったの。
ウォータースライダーとか、波のプールがあるとこ。

行く前は、密かーーーに期待してました。
何をって、そりゃ、ナンパされたりすんのかな? とか。
でも、なーんもなく一日は終わった。
ま、女の子だけでも楽しいから全然いい。 ほんとに。

そういえば、マッキーはバスケ部期待の新人なんだって。
たまに監督にしごかれて、 「あのハゲ、うっざ!」 と怒っている。
清香ちゃんの方は、吹奏楽部でフルートを吹いてる。
小柄でかわいらしい彼女に、フルートはすんごーーーい似合ってる。
時々、校内で練習する清香ちゃんを見かけると、頭をぐりぐりーっと撫でたくなるの。

山田君とは、夏休みの間、それほど会わずにすんだ。
でも、空手部と時間がかち合うと、高確率で背後に威圧感。
ふりかえるとやっぱり山田君。

・・・あなたが話しかけてくると、部員のみんながよそよそしくなるんだって!




そんなこんなで二学期です。
県立青葉台高校、略して青台は、そこそこ進学校なわりにお祭り好きな校風だ。
今も、十月の学園祭に向けて、何かと準備にせわしない。

「・・・しっかし、なんで万里の長城なのかね?」

マッキーのぼやきに、あたしも頷く。
うちのクラスの出し物は、「万里の長城」 なのだ。

最初の希望は喫茶店だった。
でも、食べ物屋は、運営の決まりで全体の四クラスまで。
申請多数による公平な抽選の結果、うちのクラスは見事にハズレ。
結局、ギリギリまで出し物が決まらなくて、半ばヤケクソで教室に万里の長城を作ることになった。

にもかかわらず、男子はなぜか張りきって、巨大なハリボテに挑んでる。
女子は、大きな紙をつなぎ合わせて、背景の空やら森やら描いている。

「清香ちゃんのクラスは、団子茶屋らしいね」
「まじ? 食べ物屋はつまみ食いできるからいいよね!」

隣で葉っぱの色を塗るマッキーは、本気でうらやましがっている。

「浴衣着てお団子出すんだって。 食べに行こうよ」
「いいね、行こう行こう。 あ、清香ちゃんに、あんこは粒あん!って言っとかなきゃ」
「ええ? あたしは、こしあん派だなー」

そんなくだらない会話をしながら、放課後のひとときを学園祭の準備に費やしていた。
平和だ。 けれど。
マッキーが 「ちょっとトイレ」 と消えたすぐ後、ふっと、目の前が陰る。

「よう」
「・・・・・・ど、どうも」

引きつり笑いを返したその先に、いつものリーゼントをばっちりキメた山田君。

「そっちのクラスは何やんの」
「万里の長城・・・です・・・」

彼はヤンキー座りであたしの前にかがんだ。

「絵、うまい」

・・・。
・・・自慢じゃないけど、あたしの美術の成績は5段階の2。
シャコウジレイとして、あたしも一応聞いてみた。

「山田君のクラスは何をやるの・・・ですか?」
「眠りの森の美女」

ニヤリと笑って立ち上がる。

「一日目の午後三時、体育館に来いよ」




最後の台詞が、劇の時間だと気づくまでたっぷり数十秒。
・・・いじめっこの呼び出しかと思っちゃったよ。




文化祭当日。

男子は朝4時に集合し、なんとか万里の長城が完成。
その甲斐あってか、うちのクラスはそこそこ人が入ってる。

ハリボテを背景に、記念撮影するサービスが人気だ。
デジカメで撮った写真は、その場でプリントアウトして、一枚百円。




「鈴、団子茶屋いくよ!」
「ちょーーー、待って!」

早足のマッキーに腕を掴まれ、あたしは危うくコケそうになった。
ロングチャイナを着てさっそうと歩く彼女は、何だか別人。
いつも大口開けて笑ってるから意識しないんだけど、実はマッキーはキレイ系の美人だ。
記念撮影のお客さんに引っ張りダコで、よーやく休憩が取れたんだ。

ちなみにプリント係のあたしは、丈短のチャイナ服。
今朝、お姉ちゃんにメイクをしてもらって、一応あたしも普段と違う感じ、のはず。




「いらっしゃーい」

団子茶屋では、ほんわかした笑顔の清香ちゃんが迎えてくれた。
紺の浴衣がすごくかわいい。

「団子は、粒あん、こしあん、きなこ、みたらしの四種類。 お茶は抹茶、緑茶、ほうじ茶の三種類です」

席に着いたあたしたちに、にっこり笑顔で説明してくれる。

「やったー、粒あん♪ こしあん以外の三つと、抹茶で!」
「あ、こしあん差別ひどい! じゃ、あたしは粒あん以外の三つとほうじ茶」

清香ちゃんはくすりと笑って、「少々お待ちください」 と仕切りの後ろに消えた。




「あっ」

団子を待っている間。
さっきから何か忘れてた気がしてたけど、突然思い出した。

「マッキー、今、何時?」
「二時半くらい」
「やばっ、あたし、団子食べたら体育館に行かなきゃ。
 山田君のクラスの劇なの」
「え、別にいんじゃない?」
「見に来いってプレッシャーかけられたんだ・・・」

ため息をついたあたしに、マッキーはおかしそうに言う。

「誘われた、って言いなよ。 鈴は、なんだかんだ言って、山田と仲いいよね」

あたしは目が点になった。

「は?」
「普通につきあえば?」
「・・・いやいや無理!」
「でも、山田、本気っぽいよー?」

そう言って、人の悪い笑顔を見せた。
本気なわけない。
そう言おうとしたところで、清香ちゃんが団子とともに再登場。
急いで団子をほうじ茶で流しこみ、あたしとマッキーは体育館へダッシュした。

舞台では、野球部の二年生が、カラフルなアフロに風船の胸をつけ、キレのあるダンスを踊ってる。
山田君のクラスの、一つ前の出し物だ。
間に合って良かった。 見逃した日には、と思うと、悪寒が走る。

ダンスが終わり、いよいよ 「眠れる森の美女」。
王子様がいばらのお城に姫を助けに行く、そこまではお伽話と一緒。
でも、お城の中で出てくる敵は・・・。
渋谷系ギャルだったり、B-BOYにA-BOYだったり。
何でもありすぎる。

そして。
「ギュインギュイン」 と唸るギターをBGMに出てきたのは。
いつもより光沢が三割増しのリーゼントに、革ジャン革パンツ、ショットガンを構えた山田君だった。

あまりにもハマりすぎて、会場は大喝采。
山田君はノリノリで王子様をイジメている。
・・・どう見ても、あれは地でしょう。

でも、王子の身の上話に涙した山田君は、潔く身を引く。
ようやくたどりついた姫の眠る寝室で、王子が見たものは────
女装した柔道部の巨漢、佐川君だった。

そして、どこからともなく湧き上がる会場の 「キス!キス!」 コール。
嫌がる王子は、舞台のそでから出てきた山田君に捕まった。
さらに彼は佐川君に寝技をかけられ、熱烈なキスを受けるハメに。
会場が異様に盛り上がる中、劇の幕は閉じた。




「おんもしろかったねー! 特に山田と佐川君、最高!」

面白かった。
そりゃあ、面白かったよ。

「どしたん? 鈴、浮かない顔だね」
「いや、だって、あんな人に目をつけられたって思ったらさ、ちょっと憂鬱になって」
「あれは演技だって! 山田はきっといい奴だよ! ・・・たぶん」




・・・。
たぶんですか。




「あ、私、山田と写真撮りたい!」

マッキーが突然、言い出した。

「えええーーーやだよ」
「いいから、いこいこ」




しぶしぶついていった舞台の裏では、出演を終えた彼らが片づけを始めていた。
山田君は、まだショットガンを肩にかけたまま、それを手伝っている。
近くで見れば見るほど、ショットガンが似合う高校一年生だ。

「山田ー、一緒に写真撮らして♪」

同じ中学出身のよしみか、マッキーは気安く声をかけた。
ニヤリと笑って頷く山田君。
三人並んで、近くにいた佐川君にケータイを渡し、写真を撮ってもらう。

「お、お疲れ様、山田君」

引きつり笑いはこの場合、あたしの得意技です。

「木下サン」
「は・・・はい?」

彼の鋭い眼がギラリと光る。
野生の猛獣の眼ってこんな感じだよね?

「その格好、似合う」

・・・顔に少し血が上ったのは、きっと舞台裏の熱気のせいだ。

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