リーゼントな山田君 冬

リーゼントな山田君は、カンがいい。




* * *




部活帰りにコンビニへ寄るのがちょっぴり幸せ。
中華まんにおでん、冬限定チョコ。

基本、色気より食い気。 たいていのことには楽天的。
人並みに悩むことはあっても、最後には 「ま、いっか」 と思っちゃう。

けれど、そんなあたしにも 「アンニュイ」 な日があったりする。
他の言い方だと、センチメンタル、ユーウツ、メランコリック。
まー何でもいいんだけど。

それには理由があって。




あたしは部活にかまけすぎて、二学期のテストは最悪。
数学なんか、三回も答案を確かめたくらい。

それに激怒したお母さんの命令で、塾の冬期講習を受けることになってしまった。
もちろん、クリスマスイブも当日もお勉強。
清香ちゃんやマッキー、そして最近仲良くなった子たちで、パーティしよう!って盛りあがってたのに・・・哀しいよー。




母よ、16歳の乙女には勉強より大事なものがあるんだよ。

・・・なんて言ったらシバかれるかも。 自分でも絶句する成績だったもんね。 はーぁ。
お姉ちゃんは、彼氏の伊藤さんとクリスマスデートなんだって。
うらやましくない。 うらやましくなんかないぞ。

そう! そういえば!
すっごくうれしいことに、最近、女の子の友達が少し増えた。
部活のみんなも、あたしを変な目で見なくなったし。
自分で言うのも何だけど、あたし、地味だしね! レディースとか、ホントありえない。
普通に日常が過ごせるって最高!




そんな感じで、幸せだったり、うれしかったり、アンニュイだったり。
心を持て余し気味な、冬なのです。




木枯らし舞う校庭を、あたしは、ぼーーーっと歩いてた。
二学期も今日で最後。
明日から、ユーウツな冬休みだ。

「どうした」

突然、降ってきた低い声に、ビクッとする。
こわごわ見上げると、冬の朝でもテッカテカに輝くリーゼント。

・・・このパターン、いつまでたっても、慣れないなぁ。
あたしの前世はリスとかネズミとか、気の小さい生き物だったのかも。

「どうしたって、何が? ・・・でしょうか?」
「ため息、ついた」

うげ。 聞かれてた。

「や、なんでもない、です」

笑ってごまかす。
寒すぎてうまく笑えてる自信はないけど。
並んで歩く山田君のリーゼントを見つつ、あたしの髪より時間かかるだろうなーとか思ってたら、彼から再び話しかけてきた。

「クリスマス、何してんの」
「・・・塾・・・です」




・・・一番聞かれたくないことでした。




「山田君は・・・何かご予定は?」

気を取り直して、聞いてみる。
あ、でもゾクの集会とか言われたらどーしよう。

「先輩の家に空手部で集まる」

・・・そっか。 いいな。
てか、山田君、部活で苛められてないんだ! 良かった良かった。




長ーい校長のあいさつの後、担任から渡された通知表は予想通りで。
無理やり奪い取ったそれを見て、マッキーがフォローする。

「・・・塾に行かせてくれるのも、親の愛情だと思うよ」

うん、あたしもそう思う。

なんて感じで、あっけなく終業式は終わった。




冬休みに入って五日目。
世間はクリスマスイブだけど、あたしは朝から勉強三昧。

(つまんないの)

よーやく塾が終わって、外に出た。
辺りはとっくに日が暮れて、駅前のスーパーのツリーがピカピカ光ってる。

行き交う人たちの楽しそうな顔が、やけに目につく。
向かいのケンタッキー前に立つカーネルおじさんだって、今日は赤と白の衣装を着せられてる。

あたし・・・何やってんだろ。
今頃、マッキー達は、ケーキ食べてるのかな。
一緒に食べたかったな。
いろいろ想像してしまう。




・・・。 ・・・なんか泣きそう。
思わず滲んだ涙を乾かすように、目を上げた。
その時。

「よう」

ドスの効いたこの声。
振り向いた先には、思わず、それどこで買ったの? と聞きたくなる紫のコート。
ヤンキー座りから立ち上がった山田君を見て、道行く人が歩道から道路におりる。
・・・やけに気合いの入った髪は、クリスマスバージョンですね!

「どっちがいい」

いろんな意味で驚きすぎて何も言えないあたしに、彼が差し出したのは、ホットのココアとミルクティー。
くれるんだよねこれ。
おそるおそる選んだのは、ミルクティー。
渡されたそれは、手袋越しにじんわりとあったかかった。

「ここ・・・なんで?」

ハンパな問いかけ。
クリスマスは塾だって言ったけど、なんでここだって知ってるんだろ。

「今日、沢田に聞いた」
「マッキーに?」

山田君は意外とカン良く言いたいことを拾ってくれる。
マッキーと、どっかでたまたま会ったんだろうか。

何か言おうと迷ってたその時、マナーにしてた携帯が震えた。
清香ちゃんだった。

「ごめんなさい」

山田君に一言ことわって、電話に出る。

「あ、鈴ちゃん? メール見た?」
「え? ごめん、まだ見てない」
「ほんと? あのね。
 鈴ちゃんの分、ケーキとっといたから、帰りにあたしのうちに寄らない?」
「え・・・」
「みんな待ってるよー」

清香ちゃんの明るい声。 ・・・なんか、今度は、うれしくて泣きそう。

「・・・行く! ありがとー」

電話を切ると、山田君はニヤリと笑った。

「俺も先輩んち、戻るわ」

彼の足元で、ウエスタンブーツのかかとについた歯車が、ジャリン、と鳴る。

「メリークリスマス」

低い低い声が鼓膜をふるわす。

「山田君!」

街灯にリーゼントの照り返しがきらめいた。
大きな手には、空っぽのココアのボトル。

「ミルクティー、ありがとね! メリークリスマス」

頷いて、彼はまた歩き出す。




塾から帰る途中、清香ちゃんちに寄った。
「良かった来てくれて!」 と言ってくれるみんなに照れ笑いを返す。
あたしを入れて5人分に切られたケーキの角度は、きっちり72度。
マッキーの 「ちゃんと分度器ではかったんだよ!」 の言葉に、「切ったの、ミヤポンじゃん」 と清香ちゃんが笑って突っ込んだ。

そうそう。
マッキーは昼間、スーパーで偶然、山田君に会ったんだそうだ。
あたしの塾の名前を聞かれたけど、まさか行くなんて思わなかった、と言う。

「大丈夫? あいつ変なことしなかった?」
「うん、平気だよ。 ミルクティーもらった」




どちらかというと、和んだ。
あの凶悪な顔で、ココアを一気飲み。
さすが、山田君はいつだって予想外!




すっかり冷めてたけど、山田君からもらったミルクティーと一緒にケーキを食べる。
清香ちゃんとおばさんにお礼を言って、急いで家に向かった。

ドアを開くと、玄関まで漂ういいにおい。
お母さんも気を遣ったのか、ごちそうを用意してくれていた。
もちろん、ケーキも。
そしてあたしは、本日二度目のクリスマスケーキまで、しっかり完食。

「アンニュイ」 な気持ちは、もう、あたしの中のどこにもない。
だから、こんな幸せをくれたみんなに、心から言います!

I wish you a Merry Christmas & happy new year!

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