リーゼントな山田君 春

リーゼントな山田君は、かなり真面目だ。



* * *



一、二年生メインの春大会に、あたしは補欠でメンバー登録された。
試合には出られなかったけど、嬉しくて練習をはりきりすぎたせいか、風邪をこじらせて春休みの登校日を休んでしまった。




その日のクラス分けの発表は、マッキーがメールで教えてくれた。
メールには、あたし達が別のクラスになったと書かれてた。
選択教科が違ったから予想はしてたけど、高校で初めてできた友達だから、ちょっとさびしい。

けど、ミヤポンが同じ三組になったのはうれしかった。
ちなみに清香ちゃんは八組で、クリスマスパーティに来てたもう一人、佳奈とマッキーは隣の四組。

ミヤポン、本名・菅原都は、クリスマスケーキを72度に五等分した子。
そんなきっちりしたミヤポンは、弓道部だ。
あの部は市の弓道場を使ってるから部活してるところを見たことないけど、すらりとしたミヤポンならかっこよく袴を着こなしてると思うんだ。

てか、あたしももう、二年生かあ。
時間が経つのはホント早い。




校舎のまわりの桜が散り始めてる。
制服を着て登校するのは、なんか久しぶり。

これから一年過ごす教室に、見慣れた顔を見つけてほっとした。 新しいクラスって、少し緊張しちゃうよね。

「おはよー」
「鈴。 おはよ」

こっちを向いて、ミヤポンがにこりと笑う。
彼女は、マッキーやあたしみたいに大口開けて笑ったりしない。
物静かでクール。 それがミヤポン。

美術室のドアに手を挟まれた時も、

「痛い」

と一言つぶやいただけで、平然としてた。

でも、お茶目なところもある。
マッキーが机に隠したチョコボールの中身をアポロに入れ替えるいたずらは、ミヤポンが考えて、あたしが実行した。
奪ったチョコボールは半分こ。
でも、マッキーは最後まであたしだけを疑ってた。 失礼な子だ。




「風邪、もういいの?」
「うん、すっかり元気!」

そう、と彼女はもう一度にっこりする。

「ちょっと早いけど、体育館行こっか」
「うん! いこいこ」




校長先生が壇上に上がり、ざわざわとさざめく体育館が静かになる。 ・・・校長先生の話はいつだって退屈だ。
前の方に並んだから、後ろのクラスメイトの顔ぶれが気になってそろっと振り返る。
・・・・・・その瞬間、あたしは固まった。

う そ で し ょ 。

男子の列に、ひときわ目立つリーゼント。
照明のしたで、ハゲた校長のオデコよりもずっと輝いてる。

そう。 あたしは、山田君と同じクラスだった。




・・・クリスマス以来、山田君とお話するのは、そんなに怖くなくなったけど。
それでも、殺人光線まがいの視線には耐えられない。

なのに同じクラスだなんて、どう考えても、どーーーー考えても、心臓に悪いよ!




長い始業式が終わった。
教室に戻るまでの間、ロックオンされないようになるべく人ごみに隠れる。
あたしの挙動不審ぶりを、ミヤポンはクールに尋ねた。

「どうしたの?」
「・・・山田君に見つからないように歩こうと思って」
「ああ、彼、同じクラスだね」

あっさり返すマイペースなミヤポンは、あの凶悪リーゼントにもほとんど動じない。
ああ、あたしもこんな性格だったらな。




山田君とは、教室で一度目が合った。
もう癖になった硬い笑いを浮かべ、HRが終わると同時にそそくさと教室を出る。

そして翌日の朝。
席決めは、一番前の席に当たった。 うげ、と思いつつ、山田君の席が遠いことにほっとしてた。




はずだった。

「おい、谷口。 席変わってくれ」

ドスの効いた声が隣の谷口君に脅しを・・・いやお願いをした。

「あ・・・どうぞ」

すばやく席を空け渡す谷口君。
ちょっと待て! 真面目そうな君は、この一番前の真ん中の席じゃなくちゃだめでしょ!
と、心の中で叫んでも、届かない。
山田君は、これ以上無いガニマタで、どかっと椅子に座る。
あたしは体を縮こまらせた。

「・・・木下サン」
「は、はい?」
「同じクラスだな」
「そ、そだね。 よろしく・・・山田君」

山田君は、ニヤリと笑う。
・・・何だか先が不安です。




────ところが。

授業開始直前。
おもむろに眼鏡を取り出した山田君。
彼は、そのリーゼントから想像もつかないほど、真剣に授業を受けていた。
ノートをきちんと取るのはもちろん。
教科書にはこまかくチェックを入れる。

・・・どうやら、予習までしてきていたらしかった。

何だかもう、自分の自意識過剰っぷりが恥ずかしい。
恥ずかしいなんてもんじゃない。
席を替わったのは、あたしがどうとかじゃなかったんだ。
ただ、山田君の眼鏡姿はすごーく新鮮だった。

上の空なのが目立ってたのか、先生に当てられておろおろしてると、彼はさりげなくノートの端に答えを書いて教えてくれた。
・・・かなり、感動!




「あれ? 鈴ちゃん、知らなかったの?」
「山田、テストの成績上位者にいつも入ってるよ」

清香ちゃんとマッキーはお弁当をつつきながら言う。
今は、お昼休み。 いつものメンバーで中庭に集合してる。

「ホント?」

成績上位者のリストなんてあたしには全然関係ないから、いつもチラ見。
だからか、今朝の話をするとみんなに呆れられた。
「山田君が頭いいの、有名じゃん」、と。

「鈴ちゃん、山田君のフルネーム知らないんじゃない?」

・・・清香ちゃんの言葉に頷く。 そういえば何だっけ。

「綺麗の麗っていうんだよ」
「あ、それ、見たことある!」

山田麗。
たしか、この間の期末試験の掲示で一番だった。
そっか、あれ、山田君か。 すごいなあ。

「ほんと、あの顔で 『麗しい』 はないよねー!」
「・・・それにしても、全然報われてないね山田君」

ぼそっと呟いたミヤポンの声は、マッキーの爆笑に重なってあたしの耳に届かない。




同じクラスだと知ったとき、半泣きだったけど。
眼鏡をかけた山田君は、鋭い眼光が和らいで、隣の席でも全然怖くなかった。
これから一年、何とかやっていけそうなことを、いるのかいないのかわからない神様にあたしは感謝したのだった。

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