リーゼントな山田君 秋

リーゼントな山田君の機嫌は、日に日に悪くなる。




* * *




9月の生徒会役員選挙。
山田君の突然の立候補は、クラスだけじゃなく、学校中を驚かせた。
でも、見た目に反し、授業態度もごく真面目な山田君は、実はとっても先生受けがいい。
あっさり立候補は許可されて、選挙前の演説も堂々とこなしていた。
まーでも、あの強烈なキャラクターに面白半分で投票した子が多かったんだと思う。

そんなわけで。
ぶっちぎりの得票で、10月から彼がこの学校の生徒会長だ。




「最近、ため息多くない?」
「あたし? そんなことないよー」

買い物途中のドーナツ屋さんで休憩中。
部活が休みの日曜日、マッキーと佳奈の三人で洋服屋さんを巡ってる。

「そう? 二学期になってから、時々浮かない顔してるよ?」

う。 佳奈は鋭い。

藤木佳奈は、お昼を一緒に食べる面子の一人。
彼女は可愛い上にナイスバディーで、とにかく男子の注目の的。
去年同じクラスだった彼女は、あたしと違う意味で少し浮いてたけれど、マッキーが何かと佳奈にかまう様になって、自然と仲良くなった。
今ではあたし達のお姉さんみたいな感じ。

「何もないってば」
「ふーん・・・。 そういえばあんたさ、彼氏とか、好きな人とかどーなの」

それ以上追求せず、彼女は隣のマッキーに話を振る。

「好きな人なんかいないよ。 それに、隣の席の男子見てたら男に失望した」
「どうして?」
「鼻毛出てたの! それでつい、そよいでるのを観察してたら・・・うぎゃーーーー!」

思い出したのか、鳥肌が立った腕をさする。
・・・アホだ。 アホすぎる。
佳奈は冷たい目でマッキーを見た。

「・・・あんたを紹介しろって言う男子がいたんだけど、なかったことにしていい?」
「え、ダメ! 紹介して!」
「しない。 私が恥かいちゃう。 それに、男には失望したんでしょ?」
「撤回するから! お願い!」
「絶対やだ」
「・・・人が下手に出てればいい気になりおってーーー!」
「ちょ、マッキー、佳奈が白目むいてる!」

頼むから、店先で暴れるのはやめてほしい。

結局その後、買物はやめてドーナツ屋さんでずっとおしゃべり。
こんな一日もすごく楽しい。
・・・佳奈もマッキーもあんな調子だから、店員さんの視線が痛かったけど。

二人と駅前で別れて、電車に乗る。
あたしはこっそりため息をついた。




夏休みの山田君の言葉。

『木下サンにふさわしい男になる』




これって・・・これって、そういう意味だよね?
生徒会長に立候補したのも・・・・・・そのため?

でも。
よく分からない。 そもそも、何であたしなの。




入学式の日に言われた 『付き合え』 は、ずっと冗談だと思ってた。
だって、初めて会ったその日にそんなこと言われても冗談としか思えない。

それに、ふさわしいも何も山田君は成績だってすごくいいし、怖い顔だけどそれなりに皆に慕われている。 将来のことも、しっかり考えてて。
馬鹿で平凡なあたしとは、大違いだ。

考えれば考えるほど、分からなくて。
いっそ山田君に全部、聞ければいいのかもしれない。 ・・・でも、それは何だか怖い。
だから。
夏休みからずっと、山田君を避けてしまっていた。




「・・・」

隣を歩くミヤポンは、あたしがふと固まったのに気づいた。
慌てて視線を外したけど、もう遅い。
ミヤポンの目の先に、生徒会の役員と思しき一年生と並んで歩く、山田君。

ミヤポンは何か言いたげにちらっとこちらを見て、でも何も言わない。
彼女は、他人の心にやたら踏み込まない。
無関心、ってわけじゃない。
一年以上の付き合いで、クールな彼女がいろいろ考えてることを、あたしは知っている。
だから今も、ミヤポンが何を言おうとしたか分かってしまった。
でも。

「ベル鳴っちゃう。 いそご」

そう、彼女に笑いかける。 山田君の視線にも気付かないふりをして、足を速める。




「木下さん、ちょっといいかな」

部活に行く準備をしてる時、伊野君に声をかけられた。
時計を見ると、集合まであと30分。

人影がまばらな教室に、すっかり見慣れたリーゼント姿はない。
山田君は最近、生徒会の仕事で忙しいらしい。
HRが終わるとさっさと教室を出て行ってしまう。

「ん、何?」

おいでおいで、されて人気のない階段の隅に行く。




「あのさ、最近明らかに山田を避けてるけど、何で?」




あまりにストレートに聞かれて心臓が跳ねる。
うぇ。

「き、きのせいよ」
「いーや、避けてるね。 お陰でさー、教室でも部活でも山田がピリピリしてて。
 ほんと、こえーの何の。 で、何があった?」

うん。 山田君がピリピリイライラしてるのは、気づいてました。

「・・・あいつ、本当にアホだな。 そんなこと、いきなり言われても重いし。 ねえ」

何とも言えず、黙りこくる。
結局、伊野君に夏休みの会話を全て吐かされてしまった。
重い・・・。 どうだろう。 ねえ。

「まーでも、あいつなりに、木下さんに認めてもらいたくて必死なんだ。
 分かってやって」

その言葉に、ぽつりと呟く。

「・・・そんな風に考えたこと、なかった」

伊野君が苦笑する。

「・・・『ふさわしい男になる』 って言われた時、嬉しかった? それとも嫌だった?」
「・・・嫌、じゃないよ。 嬉しい・・・はよく分からない。 ただ、苦しかった」
「苦しい?」
「うん」

耳に残る声は、あたしの胸を締め付ける。

「・・・苦しかった」
「それ、何でだと思う?」

首を振る。
判然としない、この気持ちの前に、あたしはただただ困惑する。

「じゃあ、木下さんのその気持ちに、俺が名前を付けてあげよう。 ・・・恋の予感だ!」
「・・・ぇ」
「山田が気になってるから、苦しいんだ!」
「な・・・」
「というわけで、取りあえずメアド交換から始めてみようか!」
「は?」
「大丈夫、あいつがおかしな事したら俺がボコボコにするから!・・・というわけでおーい!」

ふりかえると、廊下の角から、むっつりとした山田君が現れた。
・・・怖い。 怖いなんてもんじゃない。

「じゃ、後は若い二人で♪」

そう言って、軽やかに伊野君は去って行く。

「・・・あいつ、後でシメとくから」
「・・・」
「・・・・・・苦しくさせて、悪かった」

低い声がそう告げて、背を向ける。
一瞬見えた凶暴な目は・・・・・・けれど、悲しそうだった。




予想外の展開にすっかり固まっていたけれど、その瞬間、体が自然に動いた。
彼のその目を見てしまったせいなのか・・・今となっては、よく分からない。
手を伸ばし、上着の端を引っ張る。

「メアド、教えて」

するりと出た言葉に、自分でも驚く。 それ以上に。
・・・あんなに驚いた山田君の顔、初めて見た。




伊野君に 「緊急だから!」 と呼び出されて生徒会を抜けてきたという山田君は、足早に去って行った。
一人その場に残されたあたしの携帯が、震える。

『大好きだ』

────それが、山田君からの初メールだった。

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