リーゼントな山田君 冬

リーゼントな山田君は、意外とモテる。




* * *




校庭を横切る時の、素足の膝がひりつく。
なんであたしは女子高生なの、と泣きたくなるほど寒い、真冬の朝。
お父さんのだっさいステテコが、今はちょっとだけ羨ましい。

ぐるぐる巻きにしたマフラーに顔を埋め、足を早めたその時。

「木下先輩」

振り向くと、知らない女の子が目を吊り上げて立っていた。

「一年の川野歩です」
「は、い」
「・・・あの! 私! 山田先輩のことが好きなんです大っ好きなんです!
 リーゼントとか凶悪顔とか、そんなの関係なく!」

思わず後ずさるあたしとは逆に、彼女の勢いは加速する。

「歩道に突っ込んできた車に轢かれそうだった私を山田先輩が助けてくれたんです!
 その時一目惚れしちゃったんですっ!」

・・・えーと。 そんなマンガみたいなことありえへんやろー、と脳内の吉本芸人が突っ込んだ。
でも・・・・・・山田君ならありえるかも!
一年の川野さんは、キッとこちらを睨んだ。

「絶対に、木下先輩には負けませんから!」

走り去る後姿を見送りつつ、あたしは茫然と立ち尽くす。




・・・借りた本を返そうと、よろよろしながら清香ちゃんの教室に辿りついた。

「どしたの?」

さすが、気配り上手な清香ちゃん。
いち早くおかしな空気に気づき、二人になれる場所へ移動しようと言ってくれた。




「それ、おかっぱの可愛い子でしょ。 鈴ちゃん、全っ然あの子に気づかなかったからなあ」
「・・・知ってるの?」
「いっつも山田君の隣にいるじゃん。 生徒会の子だと思う。 山田君と話してる鈴ちゃんを、時々睨んでたよー」

ここは校舎の端。
窓から、今通ってきた校庭と、登校する生徒達がちらほら見える。
さっきの事を話したら、どーやら清香ちゃんには心当たりがあるみたいだった。

「言われれば、そんな子がいたよーな・・・」
「・・・鈴ちゃん、鈍いよね」

清香ちゃんの直球は痛いです。

「で・・・大丈夫?」
「ん。 もう平気。 少しびっくりしただけ」
「嘘。 まだ何か悩んでるでしょ」

・・・。
図星。




衝撃の初メール以来。
山田君とは、部活帰りにちょこっと話したり。
「寒い」 とか 「伊野をシバいた」 とか、何てことなかったり、あったりするメールをやりとりしたり。
彼がうれしそうに目を細めると、つられてうれしくなる自分がいたり。

今、すごく微妙な線上にあたしはいる、のだと思う。

でも。 ・・・でも、ね。
山田君のように、今朝の川野さんのように、『大好き』 と真っ直ぐ言えるほど強い何かが、まだ足りない。

それなのに、来週はバレンタインだ。
川野さんみたいな子なら、心のこもった100%本命チョコを用意できるんだろう。
けど、こんな曖昧なまま、本命とも義理ともいえないチョコをあたしが山田君に渡すのって・・・どうなの。




────これって、すっごく小さい悩みかもしれない。
けれどそれを、清香ちゃんは真剣に聞いてくれた。

「・・・うーん。 何となく、その気持ちは分かるよ」

彼女は慎重に言葉を繋げる。

「でも、深く考えなくても、いいんじゃないかな」
「そーかなー・・・」
「だって、好きかそうじゃないかの境目は、誰にもわからないんだよ。
 それに、鈴ちゃんは鈴ちゃんでしょう。 川野さんとか、関係なく」

ほんわかした笑顔でそう言われると、不思議と納得しちゃう。
そこが清香ちゃんのすごいところだと、密かに思う。

「少なくとも、山田君が嬉しいと鈴ちゃんも嬉しいんでしょ? 山田君がチョコ貰って喜ぶとこ、見たくない?」

うーん。

「・・・。 見たい・・・かも」
「なら、あげなよ」

そっか。
あげても、いいのかな。
少しずつ、胸のモヤモヤが晴れていく。

「聞いてくれてありがとう」

清香ちゃんはどういたしまして、ともう一度笑った。




「・・・げ」
「・・・木下先輩」

バレンタイン前日、例の後輩ちゃんとすれ違った。
意識して見ると、川野さんは山田君と一緒にいることが確かに多い。
今に見てろよ・・・・・・嘘です、この子怖い。 めっちゃ怖い。

「私、明日、山田先輩に告白するんです。 邪魔しないでくださいね」

きつめの視線を投げかけて、川野さんは言う。
む。 その挑発、乗った!

「・・・あ、あたしもあげるもん」
「木下先輩は、山田先輩の事、そんなに好きなようには見えませんよ。
 本気じゃないなら、引いてください。 振り回される山田先輩がかわいそう」

どっちかっていうと、振り回されてるのはこっち・・・と思いつつ、睨み返す。
そう。 あたしはあたしだ。

「本命なんですか、義理なんですか。 中途半端は無しですよ」
「それは・・・しいて言うなら、 『鈴チョコ』 よ!」
「は?」

相手の目が点になっている間に、走って逃げる。
あたし、頑張った!




バレンタイン当日。
同じクラスなら渡しやすいかといえば、全然そんなことなかった!
クラスのみんなの目が気になって、逆に話しかけにくい。
心の準備をしてタイミングをはかってる間に、すぐ休み時間が終わっちゃう。 くそう。

そして昼休み。
よーやく決心して山田君を探してると、一年生の集団に取り囲まれてチョコを受け取る彼を発見した。
・・・そりゃ、リーゼントとはいえ生徒会長だもんね。
めちゃめちゃ目立ってるもんね。
でも・・・何だかショック。

そういえば、川野さんはもう渡したんだろうか。
あの勢いで 「付き合って下さい」 とか言われたら、どんな男の子でも思わず頷いてしまうかもしれないなあ。
あの子、可愛いし。

そう考えて弱気になっちゃったけど。
・・・でも、負けない。
何と勝負してるんだか分からなくなってきたけど、とにかく放課後! あたしは放課後に賭ける!




部活を終えて、走って武道場に向かう。
その途中、伊野君に呼び止められた。

「木下さん、もしかして山田探してる?」

息を切らせて、頷く。

「あいつ、自転車置場だよ」
「ありがとう!」

がんばってー、と背後からかかる伊野君の声に手を振る。




向かう先に、夕陽に照らされたリーゼントのシルエットを発見して、立ち止まった。
呼吸を整える。
ゆっくり近づくと、山田君が顔を上げた。

「・・・木下サン」
「・・・あのね、山田君」
「うん」
「チョコレート、貰ってほしいの」

昨日、お姉ちゃんに教わって作ったフォンダンショコラ。
さんざん悩んで選んだ包装紙で、丁寧に、丁寧に包んだそれを、差し出す。
思わず、目をぎゅっと瞑る。

「ありがとう」

手元が軽くなって、目を開ける。
瞬間、あたしは見てしまった。
眉間のシワと鋭い眼光の代わりにそこにあったのは。

彼の満面の笑顔と、目元の、小さな笑いジワ、だった。

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