リーゼントな山田君 春

リーゼントな山田君は、寝てても怖い。




* * *




春です。
四月です。

半年に一回の選挙を終え、生徒会は新役員へと引継ぎされた。
檀上であいさつする山田君は、どこかほっとして見えた。
こんなのほほんとした学校でも、生徒会長はやっぱり大変な仕事だったんだと思う。
ほんっとーーーにお疲れさま!

そして今、彼はこの青台で新しいポジションを獲得しつつある。




────登校中に数えてみただけでも、11人。
今、男の子たちの間でリーゼントが熱い。

ふと目に入った12人目。
数えるのをやめて、早足で追いかける。
追いついた後ろ姿に、一つ深呼吸して声をかけた。

「・・・おはよ」

青台一のファッションリーダー、山田君は鋭い目を瞠る。
リーゼントの群れの中でも、この存在感は別格です。 さすがカリスマ!

「・・・おはよう」

低い声がぼそっと言う。
歩きながら、切れ長の目の端でこちらの気配を探ってる。
前は怖かったこの視線も、今はそんなでもない。
むしろ、かまってほしいのに素直に寄ってこない近所の子犬に似てて思わず笑っちゃう。

「笑うな」 と呟いて、彼は完全にそっぽを向く。
あたしは慌てて笑いをひっこめた。




今年、山田君とは違うクラスになった。
よーやく自分から話しかけられるようになったのに、少し寂しい。

それにしても、もう三年生かあ。
校庭に散らばる桜を踏みしめて感慨にふける。
そしたら、「渋い」 と一部で評判の声が、爆弾を投げかけた。

「・・・日曜。 暇ならどこか行こう」
「・・・。 ・・・どこか・・・?」
「映画でも、何でも」
「・・・」

コレハ。

「・・・・・・嫌ならいいけどな」
「・・・や、嫌じゃないよ、行く」

デート。
デートですよ奥さん!




「明日、初デート?」

コクコクと頷く。

「・・・バレンタインからずいぶん時間かかったね」

首を傾げると、お姉ちゃんは苦笑いした。

「鈴はぼけーっとしてるから相手も大変よねー」

デコピンされた。 痛い。




チョコをあげたあの瞬間、山田君とあたしの関係は、ただの (・・・と言うには少し特殊かも) クラスメイトから彼氏彼女になった。
意識すると、すっごくすっごく照れる。
もうもうもうもう、ふとんにもぐってジタバタしたいくらい、照れる。

けれど、かすかな、やるせなさもある。
川野さんは、ふられてしまったらしい、と聞いたから。
しょーがないよ、とマッキーは言う。

みんなの願いは同時に叶わない。
どっかのアーティストが歌ってた歌は、この場合、正しい。




「彼の写真、見せてよ」

明日着ていく服も決まった。
相談に乗ってくれたお姉ちゃんが、好奇心丸出しで聞いてくる。
でも、あたしが取り出した体育祭の写真を見て、固まった。

「・・・鈴、あたしの彼見て素敵って言ったよね」

確かに言った。 お姉ちゃんの彼氏、伊藤さんをほめまくった。

「・・・全然違うタイプだね」

でも、山田君の全開笑顔も素敵なんだよお姉ちゃん。
・・・まだ、一回しか見たことないけど。




そして迎えた翌日。

ワンピースとカーディガン、そして足元はカジュアルなブーツ。
お姉ちゃんのアドバイスに従って、服もメイクも気張りすぎず、手抜きしすぎず。
向こうからやってきた山田君は、めちゃめちゃ気合いの入ったリーゼントに龍と虎の刺繍の入ったスタジャン。
ジーンズは意外と普通。
ケミカルウォッシュじゃないことに、少しだけほっとする自分を戒める。
人を外見で判断しちゃダメだよね!

「・・・うす」

正面に立った彼は、ふいっと顔をそらせて低く言った。




映画館の入口で、これがいいと山田君が指さした。
女子が好きそうなラブコメ。
かなり意外に思いつつ、有無を言わさずチケットの列に並ぶので、後に続く。

────そして、映画が始まって15分。
隣から、すーすー寝息が聞こえてきた。
はや!

その時、思い出したのは。
ロビーで入場を待ってる間、山田君の視線の先にあったアクション映画のポスターだ。
・・・あたし、アクションものだって大好きなんだよ山田君。
でも、気を遣ってくれてありがとう。




映画が終わり、明かりがついても山田君は熟睡してる。
初めて見る素の寝顔は、かなり怖い。
起こしてどつかれたらどうしようと思いつつ、なるべく遠くから肩をつつく。

映画館から出た山田君は、すごく気まずそうに 「ごめん」 と謝った。
あたしは軽く首を振って、笑う。

「お腹すいてたら、今度は山田君の食べたいものにしよ」




こうやって過ごす時間が、あたしをひどくうれしくさせる。
怒ったり、がっかりしてたら、もったいない。

そして、もし、誰かの悲しみの上にこの関係が成り立っているのなら。
あたしは、全力で彼を幸せにする、セキニン、があると、思うんだ。

新しい面を発見するたび、優しさを知るたび、何かで心が満たされてく。
彼にとって自分もそんな存在でありますように。

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