リーゼントな山田君 秋

リーゼントな山田君にも、敵わない人がいる。




* * *




食欲の秋。 読書の秋。 運動の秋。 芸術の秋。
最初に言い出したのって誰だろう?
結局何でもいーんじゃん、とか思ってしまう、やさぐれ気味なあたしです。

だって、受験生に読書とか運動とか芸術とかやってる暇なんかないわけで。
・・・特に食欲は、部活をやめて少し太ったあたしにとって最大の敵。




だからと言って、毎日がギスギスしてる訳でもない。
マッキー達や山田君とは同じ塾だし、休み時間には他愛ない話で盛り上がったりする。

ちなみに、昨日の話題は 「オムライスの卵は、ペラペラが好きか半熟が好きか」。
山田君はペラペラ卵派らしい。
あたしは断然ふわふわ派。
でも、口数の少ないミヤポンが珍しくぺラぺラ卵の良さを力説するから、思わず寝返りそうになってしまった。

山田君とは時々、図書館で一緒に勉強したりもする。
お互い無言でカリカリやってるだけなんだけど、それはそれで充実してる。
問題集を解く合間に、密かに彼を観察するのも楽しかったりして。




そんな秋のとある夜。
なぜかあたしは、山田君のご家族に囲まれて、夕食を共にしている。




────そもそもの発端は、山田君の一言だった。

「・・・参考書、貸そうか」

模試の結果が芳しくなかったあたしに、ありがたい申し出。
ちなみに彼は、前回の模試も今回も、A判定。
それでも、油断せずこつこつ勉強を続けてるから、やっぱりこの人はすごい。
二つ返事で頷こうとして、はたと首をかしげた。

「や、悪いよ」

山田君だって本屋さんでじっくり中身を見ながら選んだはずだよね。
それをちゃっかり借りようなんて、虫がいい気がする。
あたしの遠慮に気づいて、山田君は鋭い目を細めた。

「一通りやったから気にすんな」
「・・・じゃ、交換で!」

カバンから終わったばかりの参考書を急いで取り出す。 彼は、律儀だよな、と目を緩めて少し笑った。




塾からの帰り道、駅前でみんなと別れた後、自転車の後ろに乗った。
しばらく走って、二階建ての一軒家の前で止まる。

「待ってて」

そう言って、彼は玄関に消えた。
ここが、山田くんちかあ。
何とはなしに、その家を見上げた時。

「あら、麗のお友達?」

開いたドアからのぞく顔を見て、仰天。
その女の人は、驚くほど山田君そっくりだった。

「まあまあまあ、上がっていきなさいよー。 ついでに夕ご飯も食べてく?」
「いや・・・その」
「ほらほら遠慮しないでいいのよー。 あなた、お名前は?」
「木下鈴です、は、初めまして」
「あらあ、可愛らしいお名前ねー。 あ、スリッパ出すわね」

目を白黒させている間、山田君のお母さんと思しき女の人は、あたしを半ば引きずり込むように家の中へと拉致・・・いやご招待してくださった。
通されたリビングのソファにちんまり座る。
参考書片手に階段を降りてきた山田君は、そんなあたしを見て固まった。




・・・そして今に至るわけで。

あたしの右には山田君、左にはお父さん、向かいにはお母さんとお姉さんが座ってる。
・・・これっていわゆる四面楚歌? あ、でも、敵ってわけじゃないから違うか。
食卓に着いた山田君が、不機嫌そうに口を開く。

「・・・なんで姉貴がいる。 今日合コンって言ってただろ」
「『面白いから早く帰ってきなさい』 って私がメールしたのよー」

お母さんはご飯をよそう手を休めてにこやかに言った。
・・・。 面白いから・・・?

「にしても、麗がカノジョ連れて来ちゃうなんてねー」

あたしを向いて、お姉さんはにっこり笑った。
・・・こちらも山田君にそっくり。
お母さんを見た時ほどの衝撃はなかったけど、やっぱり顎が外れそうなほどびっくりした。

お母さんとお姉さんは、ヤクザの奥さんシリーズに出てた人に少し似てる。
岩下・・・なんだっけ。
どちらにしても、二人とも涼やかな雰囲気の美人!

「鈴ちゃん、だっけ」
「あ、はい」

笑顔が優しそうなお父さんは、あまり山田君に似てなかった。
体格も、肩幅はあるけどわりと細身な山田君に対し、お父さんはすごくがっちりしている。
でも・・・髪が。
これは、いわゆるソフトリーゼント・・・と言うのでしょうか。
食卓にはハンバーグが並べられ、全員でいただきますと挨拶をする。

「鈴ちゃん、遠慮しないで食べてね」
「は、はい」
「こんなだっさい頭の弟だけどよろしくねー」
「うるせえ」

その言葉にカチンときたらしい山田君が凄む。

「ああ? 誰に向かって口きいてんの」

そう言ってものすごい迫力で弟を睨み返すお姉様。
・・・あ、山田君が目逸らした。

「こらこら、けんかしないのよ」

笑顔のお母様の右手には、なぜかしゃもじが力強く握られてます!




「ごちそう様です」

お母さんにお礼を言い、山田家を後にする。
駅まで送ると言う、ジャージ姿の山田君と並んで歩く。




食事が終わり、山田君が着替えてる間。
何かとあたしにかまうお姉さんが、彼の秘密をこっそり教えてくれた。

「お父さんが、『リーゼントはかっこいいぞ!』 と教え込んだせいもあるんだけど、
 身長が179cmで止まったのを気にしてんのよ。 バカでしょー」

きつい言葉と裏腹に、お姉さんの目は優しかった。
ああ、でも分かるなあ。
あたしも、「足があと1cm長かったら!」 とかお姉ちゃんとよく話すから。
何となく親しみがわいて、隣を歩く山田君にいろいろ聞いてみたくなる。




「山田君て二人姉弟?」
「いや、県外の大学に行った兄貴がいる」
「・・・似てる?」
「見た目も性格も似てない」

そのお兄さんは、盗んだバイクで走ったり校舎の窓を割ったりするような人だったらしい。
(どこかで聞いたような話・・・)
でも、今はすっかり落ち着いて普通の大学生をしてるんだって。
性格は丸きり違うけど、仲が悪い、てわけじゃないみたい。

そんな話をしてたら、あっという間に駅。

「ごめんな、今日は」

ううん。
緊張しすぎてハンバーグの味は全然分からなかったけど、なんだかんだで楽しかった!




「明日な」 と笑う山田君と目が合う。
いつになく、ドキドキする。

美人なお母さんとお姉さんに会って気づいてしまった事実。
跳ねる心臓は我ながらすごーーーくゲンキンだと思うけど・・・・・・正直だ。

────山田君は、よくよく見ると実はかなり男前だったのだ。

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