リーゼントな山田君 冬

リーゼントな山田君は、縁起物、かもしれない。




* * *




めでたいはずのお正月。
さすがに塾も休みだけど、センター試験まであと二週間とくれば、浮かれちゃいられない。
とはいえ、担げるなら何でも担ぎたいのが受験生ってやつだ。




「明けましておめでとう!」

すでに駅前に来ていた、清香ちゃん、佳奈、ミヤポンに駆け寄る。
今日はみんなで初詣。 目的はもちろん、合格祈願!

「おめでとー」
「おめでとう」
「今年もよろしくね」
「ん、こちらこそ」

メールでもやり取りしたけど、顔が見れるのって嬉しい。
前言撤回、完全に浮かれてるあたしを上から下まで見て、佳奈がぷっと吹き出す。

「鈴、着ぶくれすぎ」
「う・・・やっぱり?」

・・・だって風邪ひいたらヤだ。
本日のコーディネートは、二枚重ねのニットの上にチェックのダッフル、そしてぐるぐる巻きのマフラー。
デニムスカートから伸びた足には、タイツの重ね履きとブーツから覗くレッグウォーマー。
ほわほわのニットキャップで完成!

・・・山田君も来るからスカートにしたんだけどな。
家出る時、鏡見て意味無いなって思った。 うん。

少し遅れて伊野君、マッキー、山田君が来て、全員揃う。
時間ぴったりにやってきた山田君は、もちろん晴れの日にふさわしいキメキメのリーゼントです!




臨時バスで向かった先の神社は、人・人・人。
小柄な清香ちゃんをさりげなく気遣う伊野君は、なかなかデキる男だ。
その横で、マッキーが屋台の大判焼きをじーーーっと見つめてる。

数十分並んで、ようやくお賽銭箱の前に出た。
用意した五円玉を投げ入れ、手を合わせる。

・・・お願い事は、ただ一つ。
あたしが受けるのは、医療保健学部、理学療法士科。
国家試験の受験資格がもらえるだけあって結構な難関だ。
塾の先生たちには、浪人覚悟だよ、と言われてる。
でも、簡単に諦めるわけにはいかないんだ。

参拝を済ませて、合格祈願のお守りを買う。 そして、歩きながら大判焼きを食べた。
清香ちゃんがこの神社で 「凶」 を引いた事があると聞き、おみくじは全会一致でスルー。




────冬は日が暮れるのが早い。
駅前に戻ると、辺りは少し薄暗かった。

「また明日、塾でねー!」

それぞれが家の方向に、歩き出す。
ふと、動く気配のない隣を見上げると、ぶっきらぼうな声が降ってきた。

「・・・送ってく」




てくてく歩く。
さりげなく、山田君があたしの手を取った。
うあ、もう、恥ずかしい。 顔を上げられない。

心臓が口から飛び出してもおかしくないような緊張。
でも、言いたい。
言わなきゃ。

「あの、山田君」

目で問い返される。

「えと・・・ちょっとだけ、あそこの公園に寄らない?」

こんな風に二人でいるのもなかなかできないから、もう少しだけ、一緒にいたかった。




自動販売機にお金を入れて、ボタンを押す。
ホットのミルクティーを、二つ。

一年の時のクリスマス、山田君にミルクティーを貰ったのを思い出す。
その時はまだ、こんな風に付き合うことになるなんて思わなかったな。
何だかすごく懐かしい。

ついこの間のクリスマスは、塾の帰りにファミレスに寄ってプレゼント交換した。
あたしが用意したのは、龍がくっついた渋いキーホルダー。
コワモテに広がった全開の笑顔を思い出して、頬が緩む。

山田君がくれたのは、四つ葉のクローバーのネックレス。
・・・意外に、そして普通に、すごーーーーく可愛かった。
今日もつけてきたけど、マフラーに隠れて見えないのが残念。




ペットボトルを渡し、並んでベンチに腰を下ろす。 引き止めたけど、何を話すとか全然考えてなかった。
あせりながら、取りあえず口を開こうとした時、低い声が沈黙を破った。

「・・・中学の頃、ここで木下サンを見た」

中学までこの近くの道場に通ってた、と彼は続ける。
驚いて、あたしはその横顔を見つめた。

「足にギブスして、ベンチに座ってるのを見たのが最初」
「・・・」
「次は、歩く練習してた。
 その次は、ラケット振ってた」

そうだった。
中学三年の頃、骨折寸前の怪我をしたあたしは、部活になかなか復帰できなくてここで素振りとかしてた。
その時、病院の理学療法士さんにもお世話になった。
今も感謝してる。
だから、自分もその道に進もうと決めたんだ。

「俺、声、かけられなくて。 入学式で木下サン見つけて、嬉しかった。 でも」

低い声が、ぼそりとつぶやく。

「今は、あん時よりずっと好きだ」

・・・何だかすごく、泣きたくなる。




────あたしの願い事は、ただ一つ。

彼と同じ大学に、行けますように。
あたしと山田君の受験する大学は同じ。 それが内心、とてもうれしかった。

「木下サンなら受かる。 信じてる」
「・・・ありがとう」

涙を堪えて、精一杯の笑顔を返す。

「・・・あたしも、山田君と一緒に大学生になりたいよ」




ゆっくりと、肩を引き寄せられた。
おでこに、柔らかいものが、ちょん、と当たった。
次は頬。
最後は唇に。

山田君は上手に首を傾けていたけど、その髪がこめかみを掠めた。
あたしは真っ赤な顔のまま、山田君のリーゼントには何かご利益があるかもしれない、などとバカなことを考えていた。

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