沢田麻紀の場合 2


氷の入ったカフェオレが、気だるい午後にちょうどいい。
外の暑さから隔離されたコーヒーショップチェーンの中に、はしゃいだ声が響く。
休みに入って、一週間。
ついさっき鈴がやってきて、高校のメンバーが全員揃った。
あーーーひさしぶり。 この落ち着く感じ。

大学でも仲いい子はいるけど、しっくりくるまで、もー少しかかりそうだ。
高校みたく、毎日同じ授業を受けてるわけじゃないもんねえ。

「マッキーはバスケのサークル入ったんだっけ?」

近況報告からサークルの話に移り、清香ちゃんが私の方を向く。

「うん。 でも、男女合同のサークルから女子だけのこじんまりした方に変えた」
「なんで?」

鈴がまーるい目を瞬かせる。

「・・・なんか、『彼女・彼氏作るぞー!』 って鼻息荒い人ばっかでさ」
「ていうか、この間の合コンで、この子をお持ち帰りしようとした先輩をボコったのよ」

・・・佳奈がさらりとバラしやがった。

「・・・・・・おっまえ、言うなって言ったじゃん!」
「マッキー落ち着いて!」

清香ちゃんが止めに入り、しぶしぶ佳奈の首から手を放す。
ゲホゲホむせる佳奈に睨まれた。
それを無視して、我関せずとラズベリーティーを飲んでるミヤポンに目を移す。

「にしても、ミヤポンにも彼氏できたって・・・売れ残りは私だけか!」
「そんなん言うなら、お持ち帰りされれば良かったのに」
「・・・うっさいよ、佳奈」

そりゃあ、世の中にはそういう恋愛の始まり方もあるかもしんないけどさ。

「まあいーわ。 恋愛とか、今はキョーミないし!」

そう締めると、私は明るく話題を変えた。




ふざけた話をして、たくさん笑って、上機嫌の帰り道。
家の方向が一緒の佳奈と相変わらずくだらない話をしてたら、ふと改まった顔をされた。

「そういえばさ、家に来てる外国人は平気なの?」
「平気って何が」
「男嫌い発動中じゃない、あんた」

・・・バレてた。

・・・・・・合コンの一件以来、男に近づかないようにしてたのは、事実。
不愉快だったのと、認めたくないけど恐怖心も少しあった。
だから、誰にも言わなかったんだけどね。
佳奈は同じ学部でよく会うから、気づいたんだな。 きっと。

「・・・リアルの女にはあんまり興味なさそうだし、気楽なもんだよ?
 今度、秋葉原を案内しろって頼み込まれたし」
「・・・・・・そう。 まあ、頑張んなさい」

一応、心配してくれたらしい。
微妙な顔も素敵ですよ、姐さん。




そして、その二日後。
かんかん照りの日曜なのに、部屋の空気は重い。
アーさんと私は今、揉めに揉めているのだ。

あ、うちの両親は彼の呼び名を アーサー君 → アーさん に省略したんだよね。
なので私も、今はすっかりアーさんと呼ばせてもらってる。

「普通のTシャツにしてよ」
「・・・イヤです」

金髪男は頑としてゆずらない。
何だお前。
いつもはヘラヘラしてるばっかで、自己主張なんかしないくせに。
よし、妥協点を見出す作戦に変更。

「・・・じゃあ、あの青いのにして」
「mmm−、・・・いま、Loundryに・・・」
「洗濯中だと? 嘘つけ。 母さんが昨日畳んでるの見た!」
「マキさーん・・・」
「とっとと着替えろ。 でないと・・・」
「! ワカリマシタ!!」

たぶん、意味は分かってない。
でも、私のイライラは通じたらしく、彼は大人しく部屋に戻っていった。
アーさんが今着てるTシャツは、美少女が前面とバックにでかでかとプリントされている。
基本、誰が何着ようがかまわないけど、さすがにアレと電車に乗るのは嫌だ。

・・・それにしても、オーストラリアでどーやって手に入れたんだろう。
聞きたいけど・・・やっぱよしとこう。




同系色で控えめなプリントの美少女Tシャツに着替えたアーさんは、ちょっとしょんぼりしている。
聞くと、あれでアキバに行くのが長年の夢、だったんだそうだ。
少しだけ、本当に少しだけ申し訳ない気もする。




電車を乗り継いで訪れた先は、すごい人出。
アーさんはアニメっぽい絵が描かれた看板の数々に大興奮である。
そして、小手調べ的に入ったメイドカフェ。
うっとりとメイドさんを眺める外国人に、お客さんの視線が集中する。
前言撤回。
佳奈さん、こいつ、リアルの女にも興味あるみたいです。




お茶を終了して本日の最大の目的地、アニメグッズのお店に入る。
アーさんは、展示された商品に、青い目をキラッキラさせて 「こんなの、オーストラリアじゃ絶対手に入らない!」 みたいなことを英語で口走っている。
うーん。 やっぱ本物か?




しっかしこの店内は、ヤローばっかで居心地悪い。
「あそこのマクドナルドにいるね」 とアーさんを置いてさっさと店を出る。
随分と時間が経った後に戻ってきた彼は、はちきれんばかりに嬉しそうな笑顔だった。
私もつられて笑顔になる。

────ただし、それは一瞬で引きつった。
なぜなら・・・・・・彼が抱えていたのは、美少女プリントの抱き枕。
・・・。
うん。 趣味は人それぞれだしとやかく言う気はない。 全然ないよ。
ホントだよ。




外国人のオタクに遭遇したのも人生初だけど、こんなグッズを見るのも初めて。
注文に戸惑う彼に付き合ってやりつつ、袋からはみ出たそれを横目で眺めた。
つくづく、世の中って知らないことで溢れてる。

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