リーゼントな山田君 大学一年生 冬

リーゼントじゃない山田君は、いつもと一味も二味もちがう。




* * * *




お正月気分も薄れた今日この頃。
カラになった七草粥の皿をにらんで、おかわりしたいのをぐっと我慢する。
それだけじゃなくお正月のご馳走も、今年は控えめにしておいた。

というのも。
今週の週末。
山田君と旅行に行くから、なのだ。




以前から、「旅行行きたいねー」 って、話はしてた。
でも、前期は大学に慣れるのに必死で。
夏は、山田君の部活が忙しくて。
秋休みは、あたしの実習が入って。

気づけば、クリスマス。

いつもよりおしゃれなところでご飯を食べた、その帰り道。
山田君が突然、「旅行に行こう」 と言いだした。
その決然とした鋭い目つきに、あたしは半歩あとずさった。
そして、あっちゅーまに行くことが決定し────今日に至る。




吐く息が、白い。
とうとう、この日を迎えてしまった。

唯一事情を知るお姉ちゃんは、あたしを生温かい目で送り出してくれた。
なんていうか・・・むしろ、いたたまれなさが倍増です。

待ち合わせ場所に、遠目でもすぐ分かるキメキメのリーゼントを見つけた。
冬の朝に映えるよね! とか思う辺り、あたしはもう立派な山田君フリークだ。

「行こう」

駆け寄ると、彼は強面を少し緩めて手を差しだした。




「うっわー真っ白! すごいねー」

振り向くと、鋭い目がうれしそうに細められた。
うれしくて、無駄にはしゃいでしまう。

ここは、古くからある温泉町。
一面の雪景色に、温泉の湯気が町のあちこちから立ち上ってて、なんだか不思議。

温泉饅頭の屋台に足を止めたり、お土産屋さんを覗いたり。
甘味屋さんで休憩したり。
・・・二人で街をぶらぶらしてたら、あっという間に日が暮れた。
楽しいと、時間が経つのがすんごく早い。




「ここ」
「・・・・・・わぁ」

宿は、ものすごく雰囲気のある和風の建物だった。
渋い。 渋すぎる。

そういえば。
今回スノボとかにしなかったのは、あたしが寒いの苦手だから。
平成生まれの山田君は、なぜかそこはかとなく昭和の香りがする人だけど、これはあたしを気遣ってくれたらしい。
付き合ってみて分かったけど、実はとっても気配りの人だ。




さて、一息ついてさっそく温泉を試してみることにした。

男湯と女湯の前で、山田君に小さく手を振る。
桧の板が張られた大浴場は、すっごく綺麗だった。
外は雪景色。
思わず、ほう、とため息が出てしまう。
温かいお湯に浸かって、ふと、今夜のことを思う。
一人で百面相してるうちに・・・・・・危うくのぼせそうになってしまった。




そして今。
あたしは、部屋の扉の前で深く、深ーーーーく深呼吸した。
心の準備はOK。 意を決して、扉を開ける。

「遅い」

低い声。

「ご、ごめん」

こわごわ、目を上げる。
そこにいたのは・・・・・・そう。
初公開、お風呂上りの、リーゼントじゃない山田君です!

「・・・あ・・・あれ?」
「どうした」
「ぜんぜん・・・」

全然、蛍原じゃない。
マッキーの、嘘つき。
あああああ、でも、あれって中学の頃だっけ。
でもあたし、お笑い見ながら笑わない練習とかしてたのに。

ぽかんと口を開けてたら、山田君が怪訝な顔をした。

(・・・・・・やばいよやばいよ!)

頭の中でリアクション芸人の声がこだまする。
強風にも負けないリーゼントから一転。
ごく自然に髪を撫でつけた山田君は────鼻血が出そうなほど、めちゃくちゃかっこよかったのです。




夕飯は、たぶん、すっごく美味しかった。
たぶん、っていうのは、緊張して味がわかんなかったから。

いやだって、山田君はあんなだし。
お箸を持つ手は震えるし。

だから、しょーがない、と思うんだ。
一月だからサービスです、って出された甘酒。
それを、あたしは一気飲みしてしまった。
調子に乗って、おかわりもした。




そして、その後の記憶が・・・・・・ない。




────翌朝。
ねぼけ眼を開けると、怖い寝顔が視界一杯に広がった。
思わずのけぞると、鋭い目がゆっくりと開く。

「・・・・・・おはよう」
「・・・・・・・・・おはよう」

・・・浴衣はちゃんと着てる。
でも、何となく体のあちこちが痛い。

「あの、あたし、夕べは・・・・・・?」
「・・・おぼえてないのか」

コクコクと頷くと、山田君は眉間にシワを寄せた。
こんな間近で見ると、やっぱりこわい。
すんごいこわい。

「せっかく温泉に来たから卓球やろう、って言いだして」
「・・・はい」
「二十ゲームくらいやって」
「・・・はい」
「ぱたり、と倒れた」
「・・・」
「びっくりして助け起こしたら、すやすや寝てた」
「・・・・・・」

・・・。
・・・・・・しにたい。
てか、土下座したい。 青くなったあたしに、彼は苦笑いした。

「さすがに、何て言ってやろうかと思ってた」

その言葉に、カメのように縮こまる。 どうしてあたしの背中には甲羅がないんだろ。

「けど、もういい」

リーゼントじゃない山田君は、それはもう蕩けるように笑った。

「一番に 『おはよう』 って言われてすげー幸せ、俺」




・・・・・・宿を後にして、お土産を買って、駅に行く途中。
誰も踏み入ってない野原で、二人で小さな雪だるまを作った。
ケータイで撮ったその写真を、待ち受けにする。

山田君は、いつものリーゼントに戻った。
リーゼントにする過程は企業秘密らしく、見せてもらえなかった。
密かに気になってたから、少し残念。

やっぱりこっちの方が落ち着く、かもしれないなあ。
そんなことを考えていたら、彼がちらりとこちらを見た。

「・・・・・・何」
「・・・あたしも、幸せ」

彼は、照れかくしにマフラーに顔を埋める。
言ったあたしも照れながら、手袋ごしのその手をきゅっと、握りしめた。


<END>


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