リーゼントな山田君 卒業式

リーゼントな山田君は、三度、卒業式の檀上に上がった。




* * *




この制服を着るのは、今日で最後。
襟元のリボンを結ぶのも、ブラウスとスカートのバランスを鏡でチェックするのも、最後。




礼と共に、着席する。
整然と並ぶ椅子が、在校生、保護者、先生方、そして卒業生で埋まってる。
体育館は、いつもの朝礼や始業式なんかよりずっと厳かな雰囲気に包まれていた。

「卒業証書授与」

司会の先生の声が響く。
卒業生一人一人に、校長先生から卒業証書が手渡される。
みんなが一度は檀上に上がり、その瞬間は主役になれる。
ガッツポーズを取る子もいるし、校長先生と握手する子もいる。

静粛な空気が解けていく。
でも、それがいい。
そんな青台だから好きだ。

とはいえ、小心者のあたしはごく普通に卒業証書を受け取る。
二つ隣のクラスの山田君は、校長先生とがっちりと両手で握手してた。
校長先生が満面の笑みを浮かべた。 山田君は後ろ姿だけど、きっと笑顔だ。




次は、皆勤賞。

「山田 麗!」
「ぶっ」

斜め前でマッキーが肩を震わせてる。
・・・事前に聞いてなかったら、あたしも同じ反応をしたはずだ。
────全員が檀上のリーゼントに 「ありえねえ!」 って目を向けてます!

そんな会場全体の心の叫びに気づいているのかいないのか。
賞状を受け取った山田君は、めちゃくちゃ嬉しそうに自分の席に戻ってきた。
一転、ほんわかした雰囲気が漂う。




校長先生の式辞の後、在校生代表が送辞を述べ、いよいよ答辞。
山田君は、ここでもう一度、檀上に上がった。
気合いの入ったリーゼントが、誇らしげにキラリと輝く。

彼は、堂々と答辞を読み上げる。
聞き慣れた低い声が、マイクを通して体育館に響き渡った。
時候の挨拶をし、卒業式を開いてくれたことに対するお礼を述べる。
そして、あたしたちが共有した思い出に触れる。

どれもこれも。
本当にかけがえのない思い出だ。

後ろの子が鼻をぐすぐす言わせてる。
あ、やばい。 もらい泣きしそう。




やがて、答辞が終りにさしかかった時。
・・・山田君は、意を決したように答辞の紙から顔を上げた。




「俺、リーゼントに憧れて、校風の自由な、この青葉台高校を選びました」




・・・ちょ、え、えええーー!?

突然のアドリブに、思わず噴き出した人や呆気に取られた人で、騒然。
いくら何でも、ぶっちゃけすぎだ。 内心、「誰か彼を止めて!」 と思わなくもなかった。
・・・でも、山田君は構わず続ける。
それはもう、力強く。




「でも、ここにはリーゼントよりずっと大事なものがあった」


「この学校で三年間学べて、最高に幸せだった」


「温かく見守ってくれた先生方、ありがとうございます」


「後輩たちも、ありがとう」


「そして、辛い事も楽しい事も全て、分かち合ってきたみんな、ありがとう」


「みんなの事を忘れない。 この三年間を、絶対忘れない」




・・・最後の声は、震えてた。
でも、鋭い目が、真っ直ぐ卒業生のあたし達に向けられた。

残響が消え、彼は一歩下がり深々と頭を下げた。
シン、となった体育館が、直後、この日一番の歓声と拍手に包まれた。




「鈴先輩、卒業おめでとうございます!」
「おめでとうございまーす!」

校庭には、在校生の作ってくれた花道。
部の後輩が声をかけてくれるたびに、照れ笑いを返す。

涙はもう止まったけど、ひどい顔なはず。
答辞の後の 「仰げば尊し」 とか、涙声で歌えたもんじゃなかった。

少し向こうに、花道から引きずり出された野球部の子が後輩たちに胴上げされてる。
あちらこちらから歓喜の声が聞こえ、紙吹雪が舞う。




花道が途切れた先で、リーゼントのシルエットを見つけた。
その髪には、紙吹雪が何枚かくっついてる。
穏やかな表情を浮かべたヤンキー顔が、こちらを見た。
卒業証書を手に駆け寄る。




入学式の日。
こんな風に山田君と向かい合うあたしを、誰が想像できただろう。

でも、彼があたしを見つけてくれて良かった。
好きになってくれて、良かった。

大きく息を吸って、顔を上げる。




「大好きだよ、山田君」




────リーゼントな山田君の耳が、桜色に染まった。




────数日後の合格発表。

春からあたしは、山田君と同じ大学に通う。
みんなにも、お母さんにも、お姉ちゃんにも、先生にも奇跡だと言われた。

でも、隣にいる人だけは、「信じてた」 と笑った。


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